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ちっ、またあいつがいるのかよ。と、ヒノエは小さく舌打ちせずにはいられなかった。
これで一体何度目だ。いや……ヒノエがここ数日、影からこっそり観察してる麗しい姫君が、宇治川に舞い降りた『源氏の神子』なのだから当然といえば当然だけど、
だからってあの叔父にこうも頻繁に会うのは面倒すぎる。
しばらく会っていないけどあの性格の悪さは忘れようがない。なによりこっちの顔が割れているし、腹立たしいほど勘がいい。それが厄介だった。
だからつい、普段こうして『偵察』するときよりも顔を引っ込めてしまう。怖がってるみたいでしゃくだけど、実際そうだから仕方ない。
……とはいえヒノエも、やましいことをしてるわけじゃない。噂の神子姫と源氏の御曹司を京の街まで探りにきてるだけだ。だから、彼にバレても本当の意味で困りはしないだろう。
単純に、借りを作るのが嫌なだけだった。

というわけで、断じて見つかるまいと、ヒノエは息を殺してこっそりと、建物の影から神子の姿を観察した。
可憐な姫君だ。さらりとなびく長い髪が綺麗で印象的。彼女に封じられるなら怨霊も本望だろう。これで剣まで振り回すっていうんだからたいしたものだ。その様を、一回間近で見てみたい。ついでに花見に誘いたい。
その姫君は、黒い叔父と楽しそうに喋っている。またあの一見優しい物腰に騙されてるんだろうなあ、と、思えばなんだか悔しいような気もした。

二人が道端で談笑を続けていると、そのうち、高く髪を結った男が彼らに近づいてきた。
源氏の御曹司殿だ。ヒノエは話したことはない、が、京での評判はすこぶるいい。その彼が、難しい顔をして二人になにかを話しはじめた。
……重要な話か?ヒノエは身を乗り出す。でも聞こえない。ここじゃダメだ。
と、ヒノエはあたりを見回す。少し前に大木がある。ここを飛び出しても、今なら叔父からも死角になる、だったら。
ヒノエは今まで潜んでいた影から足を踏み出そうと、
した、そのとき。
「おい」
後ろから声をかけられた。
ヒノエはとっさに振り返ってそこにいた男…ヒノエより背の高い男の口を手で塞ぎ足を払い押し倒した。がさっ、と、結構派手な音がした。まずい。
「なんだ?」
遠くから御曹司の声がする。ヒノエの下で男がいっそう、まるで彼らに知らせるようにもごもごと言う……知り合いなのか?
けど、いくらヒノエでも推測する余裕はない。
「九郎さんどうかしましたか?」
「いや、そこの影からなにか音が聞こえたような気がしたが…」
「……気になりますね」
風向きが悪い。会話を探りつつ、ヒノエはかすかに焦る。どうしようか、と思ったとき、ちょうど猫が向こうから歩いて来るのが見えた。これだ!
「にゃーん」
猫を見つめながら声真似すると、幸運にも猫は寄ってきて、ヒノエの横を通り過ぎ、三人の方に出ていった。賢い子だ。
「あ、猫!」
「……猫に驚いた鳥が、飛んでいったのかもしれないですね」
「そうか。そうかもな」
そしておかげで騙せた。なんとか助かった…のか?
なおも息を潜めていると、ツイてることに叔父が言った。
「九郎、先程の話ですが、景時にも打診しなければならないでしょうから、帰って話しましょう」
それに二人も頷いて。
「そうですね!きっと朔と譲くんが、お昼作って待ってますよ」
「……確かに、景時の協力は必要だな。よし、帰ろう」
「九郎さんもお腹減ったんですね」
「なっなな!何を言うんだお前は!」
間抜けな会話をかわしながら行ってしまった。

ほっと胸を撫で下ろし、改めてヒノエは組み敷いた男を見た。
かなり若い男だった。顔つきも、ものすごい形相でヒノエを睨んでいる様も。
そして不思議な奴だった。
「あんた、あいつらの仲間?」
風貌もどこか、街から浮いている。見慣れない服、だが生地はいい。顔つきも育ちのよさが伺える。
けどなにより気になったのは、
ヒノエより体格がいいんだからその気になれば逃げることも反撃だってできたろうに、こんな風に今もまだ、口を塞いだ手を噛むことさえせず、ただ睨むことしかしていないところだった。

叔父たちが去って十分たってから、ヒノエは彼の上から体をどかし、口から手も離した。
すると今まで大人しくしてた相手が、今度はヒノエの腕を掴み軽くひねる。
「お前こそ、何こそこそ探ってるんだ」
やっぱりあいつらの仲間だったのか。さて、どうしようかとヒノエは悩む。普段ならまず逃げ出すとこだ、
けど、今日はいくらか彼に興味が沸いた。
「さあね。源氏の御曹司と軍師と、最近噂の神子様が並んで歩いてるんだ、注目されないほうがおかしいってもんだろ」
「……先輩のことまで知ってるのか?」
「あんな可愛い姫君を知らないほうが間抜けだね」
先輩。神子を指して彼はそう呼んだ。
神子の正体は不明だ。ここではない所から来る、と、言い伝えではなっている。あまり信じてなかったけど、でも、この目の前の、異国めいた雰囲気のこいつも神子の眷属か?と思えば…いくらか信憑性はある。
「安心しな、オレに姫君を傷つけるシュミはないよ、譲」
「なんで、俺の名前まで」
お、正解、と、ヒノエは口笛を吹いた。さっき神子の言ってた、あまり聞かない響きの名前を言ってみただけなんだけど。素直に反応してくれた彼ににやりと笑う。
「有名なんだよ、お前もね」
「なっっ、……そんなわけないだろうごまかすな」
からかえば睨みつつも動揺が見えた。ほんと素直で可愛い奴だ。譲、譲ね、と、転がすように口の中で数回名を呼んだ。呼びやすい響き。目を細めてヒノエは見つめた、
けど、当然譲はヒノエを敵視してる訳で。
「……お前がどこの手のものかわかるまで、帰さないぞ」
精一杯に言う姿は、ますますヒノエの興をひいた。
傷つける勇気はないくせに、でもその言葉は本気だと目が言っている。甘いやつ。
「随分張り切ってるね。そんなに九郎義経に恩義を感じてるのかい?」
「……」
「ってわけじゃないみたいだね。ああ、お前は神子姫様の忠犬か」
挑発にも、譲は分かりやすく激昂した。
「お前こそなんなんだよ。平家か?それとも源氏の差し金なのか?」
「……へえ」
だけどその一言に、ヒノエはいよいよ感嘆して目を丸くした。
驚いた。源氏の中にいるくせに、源氏の頭領を疑うか。しかも、敬意すら払わない。
「面白いね、お前」
気に入った。ますます気に入った。だけどヒノエが笑むほど譲は憤る。
「質問に答えろ」
そんな様もヒノエ好みだ。これはとんだ拾いもの。幸運にヒノエは笑顔を零さずにはいられない。
「オレも答えてやりたいんだけどね。こういうのは最初くらい秘密があったほうが盛り上がるだろ?」
「何が」
「何って」
そんなの決まってる、と、耳元で囁きながら、軽くそれを噛んだ。
「!!!」
途端、譲はヒノエを突き飛ばした。でも転ぶ前にひょいっと地面を蹴りとばり、着地する。
「ははっ、期待通りで嬉しいよ」
飄々たる相手に譲はますます翻弄される。頭に血が昇ってく。
「なっ…お前は一体なんなんだよ!」
「だから言えないって言ってるじゃん」
譲もすぐに起き上がってヒノエにつかみかかる、けど、捕まってやらない。
「先輩に何をするつもりだ!」
「センパイより、自分を心配しなよ」
「なんで俺が」
「もう一回やらないとわかんない?」
「!」
ひょいひょい逃げるヒノエを追いかけていた譲も、その言葉で青ざめて止まった。
本当に可愛いやつだ。浚っていきたい気持ちにかられる。でも、無理強いはシュミじゃない。
そして名残惜しいけど、そろそろ時間切れだった。
最後に改めてヒノエは笑う。
「怖がらせて悪かったな。安心しな、オレは当分現れないよ」
「だから、誰なんだよ……」「名前なんて些細なものさ。それに、また会いに来るよ。その時までオレを忘れないでおいてよ」
「……自分勝手な奴だな」
「良く言われる」
言いながら、ヒノエは飛び出し、大木の枝を器用に掴んで一瞬で登った。そのまま、道の向こうの垣根の中に飛び降りる。
少しだけ移動して、息を殺して彼をみた。譲はしばらくヒノエの消えた辺りを呆然と見ていた。けど、しばらくの後、何も言わずに、そこを離れていった。

譲は最後まで笑わなかった。仕方ないか。残念だけど、次の楽しみができたと思っとくことにして、。
ヒノエは再び駆け出し、京の街へ溶けていった。
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三日ぶりに家に戻ってきた。
中に入ると、夜もとうに深まっているというのに、奥から明かりが漏れていた。
やっぱり。九郎は深く息を吐く。それきりぴたりと気配を消して、足音も殺し、静かに静かに忍び寄る。
察しの悪い彼ではない。気付かれるかもしれない、
が、九郎の推測が正しければ、平気だろう。
案の定、気付かれた形跡はないままに部屋の入口までやってきた。
そして。
「熱心だな」
冷ややかに言うと、小さい明かりの下、寝転がってなにやら読み耽っていた弁慶はびくりと体を震わせたあと、顔だけ九郎に向けてよこした。
ただし、反応とは裏腹に、その表情はすっかりと繕った笑顔だった。
「九郎。おかえりなさい。……今日は鎌倉殿のところに控えているはずでしたよね。どうしました?僕に会いに来てくれた?」
「ああそうだ」
「……驚いた。君が冗談を言うなんて。本当に寂しがってくれたなら嬉しいんですけどね」
「馬鹿なことばかり言うな。河内から急ぎの用を持って伝令が来たから、俺は今日は戻れと言われただけだ」
だから、どうせまた必要以上に夜更かししてるのだろうと足早に帰ってきてみれば、このとおり。
九郎は腰を下ろし、いけしゃあしゃあと言う弁慶の顔を至近距離から覗き込んだ。
「また目の下が黒い。毎日これだったのか?」
「君がいないからつまらなくて」
「俺がいても関係なく読んでるじゃないか」
「これが君の軍師である僕の仕事ですからね。君の役に立ちたいと、僕も必死なんですよ」
怒る九郎に対して弁慶は、一見いじらしい言葉を紡ぐが、さっきと同じで涼しげなままの顔をみれば、さすがの九郎も騙されない。
「俺は別にお前に役に立てと頼んでない」
「君が心配なんですよ、九郎」
「俺だってそうだ!」
卑怯にも九郎を言い訳にしようとする弁慶に叫びつつも、裏腹に、九郎はそっと弁慶の頬に手を伸ばす。目の下のくまを親指で二度、三度と撫でる。
たしかに、弁慶が書を読むのが好きなのは知っている。それを咎めるのは気が引ける。もし、彼が言うとおり本当に九郎を気にかけてくれるならますますだ。
でも限度というものがある。放っておくと朝まで読んでるんだ、こいつは。
特に、九郎がいないときはここぞとばかりに読みまくる。いつだったかは、最終的に、疲れ気を失うように眠って丸一日起きなかった。呆れるしかない。
それにやっぱり。
「くまのない顔の方が好き?」
「そうだ」
するりと答えてから九郎はぎょっとした……心を読まれた!?
そんな九郎の気持ちをもお見通しなのだろう、指先を強張らせてしまった九郎の態度に、弁慶は気分よさそうにくすりと顔を崩す。
「君のそういうところ、僕は好きですよ」
「……」
九郎は複雑な想いと共に沈黙した。
随分長い時を共にしているのにいつになっても慣れない。見抜かれるのも、こんな風にありふれた笑顔を向けられるのも、
そして、
ただの夜更かしのせいとはいえ、弁慶が疲れた顔をしてるのも。
「……俺は、」
……こんな気持ちもばれているのだろうか。だったら今更躊躇うだけ馬鹿げてるな。
思い、九郎は素直に気持ちを話すことにした。
「俺はお前が笑ってるのが好きだ」
さっぱりと九郎は言った。意図せず顔が綻んだ。が、気にはしなかった。
なのに今回は、九郎の言葉に、まるで意表をつかれたかのように弁慶が目を丸くした。
「……九郎」
「……なっなんだ、なんで今更そんな顔するんた!」
それに、九郎もつられて慌てふためく。却って恥ずかしい思いをする羽目になり、とは言え事実は事実だけど、だからってこいつは、
なんて、九郎があれこれ一人で考えている間に、弁慶がふわりと笑った。
「いえ、僕も君の笑顔が好きだな、と、思いました」その一言で、九郎もあっけなく落ち着いた。納得した。弁慶を見つめる。弁慶も見上げる。
再び告げた。
「ああ。俺もやっぱり好きだ」
携帯からでも見易いよう、なにより携帯から(電力節約しつつ)更新できるように、ブログを作ってみました。
書こうか迷ってた話、突発で思いついた話中心なので、短めです。
携帯でssを書くのはとても久しぶりなので、読みにくかったらすみません。
普段書かないカップリングも混ざっているかも。

感想の類は一切不要です。時間があるときにのぞいてもらえれば、(私の文章力は別として)遙かいいなって心がちょっとでも思ってもらえれば、私は十分幸せです。

ちなみに、もともと別の用途で使おうとしてた(けど放置していた)ブログの流用なので、アドレス・デザイン等、突貫気味なのは目をつぶってください。
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