uc特設/ 2の八葉(前)(4000字) 忍者ブログ
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※二年前の記憶だけで書いてるので、一人称二人称三人称その他口調行動関係等曖昧です
※3章開始直後までのネタバレを一部含むかも


ぱかりぱかりと蹄が乾いた土を蹴る音を響かせつつ、馬が一駒、早くなく遅くなく走っていた。
操っているのは一人の若者。彼は頻繁にここに来ていた。なにを探している訳でもなく、なにをするわけでもない。少し前までは、そんな日々に嫌気をさしていた。でも今は……やっぱりなにもしてないけど、苛立ちのような感情は随分と薄まっていた。
いつも通る橋に通り掛かったところで、橋の欄干にもたれて俯いき、しょんぼりと川を見ている姿に気がついた。
「あれは」
知っている人物だった、けど、この前までは口を聞くこともない…身分的にも、そもそも話したいとも思わなかった相手。でも今はいくらか縁があるし、
なにより、そういう人に声をかける為に、こうして街中を巡ってるのだから、戸惑いはせずにま近づいて、
「何やってるんだ?」
と、馬から降りながら問いかけた。
とんだ不敬にまわりがぎょっとした気配がしたけど本人達は何食わぬ顔で、むしろ、話し掛けられた、どうみても身分の高い見なりの人物の方が縮こまりながら、
「勝真殿」
と、見た目通りに線の細い声と共に顔をあげた。
「こんなとこで何やってるんだ? 腹でも減ったのか?」
「いえ、そういうわけではありません……大丈夫です、どうかお気遣いなく。勝真殿は、お仕事をされているのでしょう?それを私ごときが、煩わせる訳には……」
気楽すぎる勝真に対して、よそよそしい泉水の言葉。いつものこととは知ってるけど、じれったさを感じて勝真は短く言った。
「あのなあ、だからあんたみたいな人に手を貸すのが俺の仕事なんだよ」
「ですが……」
「それに八葉の仲間ってやつなんだろ、泉水殿。『あいつ』が泣くぞ」
「そうなのですが……」
「ああもう!」
後ろ手で頭をかくと、泉水はまたもびくっと怯えた目で勝真をみる。話が進まない噛み合わない。さすがにいい奴なのは分かってきたけどどうにも合わない。困った。
と、勝真が睨みそうになった時。
「あれ、珍しい組み合わせじゃん」
「イサト」
「イサト殿」
二人と同じ八葉であるイサトが、髪や装束をゆらゆら揺らしつつ近づいてきた。
「あー! 勝真、泉水を虐めてたんだな!」
「違いますイサト殿!私が至らぬばっかりに……」
「……」
必死な泉水。ますます勝真が虐めたみたいじゃねえか、と、残りの二人は黙った。
とはいえ、これで少しは好転するだろうか。勝真は気を取り直して、
「ほら、いい加減あんたも何に落ち込んでたのか言ってくれよ」
改めて聞くと、しばらくおろおろした後だけど、泉水はおずおずと答えた。
「実は、笛を……」
「笛って、いつも持ってるあれか?」
「はい。私の大事な、大切な笛が、さきほど鳥に持ち去られてしまいまして、どうしようかと困り果てておりました」
「鳥?盗賊かなにかか?」
「いえ……お恥ずかしながら、鷹かなにかの、翼の生えた鳥でござ」
「はあ?」
鳥に襲われるとか、しかも笛なんて、鳥からしたら棒きれを持ってかれるなんてありえるのか…? と、勝真とイサトは仲良く顔を見合わせてしまう…けど、
「いやでもこの宮様なら」
「ありえるな……」
「もっ、申し訳ございません」
二人の態度にさらに縮まる泉水。大きく溜め息ついてしまうのも仕方ない。でも、怯える泉水に、二人はすぐに笑った。
「で、それを探せばいいって事?」
それに泉水は惑う。
「えっ、はい、ですが私などのために」
「だから、それが俺の仕事なんだっての」
「『あいつ』だって、こういう時率先して探すだろ?」
けど、頼もしく言う勝真とイサトに、結局泉水も、
「……では、お頼み申し上げてよろしいのでしょうか」
「ああ」
「任せとけ!」
「……はい!」
頷いて、はんなりと微笑んだ。


とはいえ、鳥が持ち去ったとなると、捜索はたやすくない。
「で、どーしよっか」
腕を頭の後ろに組んで、あてもなく空を見上げるイサトの言葉ももっともで、泉水も顔を曇らせる。
そんな中、勝真はにやりと笑った。
「いるだろ、こういう捜し物にうってつけな奴が」
「?」
「ま、すぐに分かるさ」
そして馬を引きつつ、東に向けて二人を誘った。



「事態は理解した」
勝真曰く、「うってつけな人物」は、いつも変わらぬ涼しい顔で告げた。
「泉水が笛を無くした、それを私に探してほしい、と」
「ああ。頼めるか?」
「申し訳ございません、泰継殿」
捜し物といえば陰陽術。そして彼等の仲間には凄腕の陰陽術師がいた。彼に頼むのが早いし確実だ。勝真はそう判断し、彼が住む森へとやってきた。
というわけだった。
指名を受けた泰継も、三人をぐるりと見て、
「問題ない」
と、いつもと同じに淡々と言った。頼もしい姿に三人は歓声を、
…あげるより前に、同じ声音で泰継が水を差した。
「だが、必要ない」
というより、終結させた。
「へっ?」
イサトがへんな声をあげるが、泰継に限って、冗談とか意味ないことは言わない断じて言わない。だから泉水はびくっと身を震わせ、胸の辺りで手を組みおずおずと問い返している。
「泰継殿、それは」
「お前にあの笛は不要だと言っている」
つまり、探さない、と、泰継は告げた。
「そうですよね……」
それは、
泉水にとってはありふれた前の答だった。最近、色々な事がありすぎて失念していたけれど、そうだった。自分の為に、泰継殿のような偉大で高名な陰陽師が、力を奮うなどあるはずがないのだ。
いつもの答に行き着いて、泉水は頭をさげた。
「お気を煩わせてしまい申し訳ありません」
けれど、繊細なその声は、
「ちょっと待て」
「それはねーよ!」
という、勝真とイサトの声で簡単に霧散した。
「何か問題か?」
割り入ってきた二人に顔を向ける泰継に、彼らは続ける。
「あるな、大いにある」
「あれは、泉水の大事な物なんだ。それを要らないとか、簡単に言うなよ、あんまりだろ!仲間だろ!」
「手伝える分なら当然、俺達も手伝うから、どうにか探してやってくれないか」
「頼むよ!」
畳み掛ける二人に、泰継は変わらず無表情だった。
けれど泉水の心が揺れた。
二人がこんなにも、言ってくれるのに、私は。ぎゅっと袖を握りしめ、とっさに顔をあげた。
「わっ、私からもどうか、どうかお願いします、泰継殿。あれは私に笛を教えてくださった方からいただいた、大切な品なのです。それを、なくした私が、私などがこうしてお頼み申し上げるのは、煩わしいかと思いますがどうか」
それにようやく、やはり無表情だけど泰継が泉水を見て口を開いた。
「だが泉水、お前は笛などに頼らずとも、十分に霊力を奮える。自信を持て」
それに……三人は仲良く首をかしげた。
「え?」
「なんだって?」
「笛などなくも、問題なく八葉の責務を全うできる」
そして、ようやく勝真が理解した。
「……そういう意味かよ!」
「どういう意味だよ」
はあ~~っと、勝真は盛大にため息ついたあと、イサトを見て、
「つまり、泰継は、笛は泉水殿が霊力を使うためだけの道具だと思ってたってこと」
「違うのか?」
次に、正真正銘真顔の泰継に説明した。
「違う。全然違う。笛は、楽を奏でるものだ」
「私には、それしかできませんから」
「そうだったのか……」
「『あいつ』もこの前、吹いてもらって喜んでたじゃん」
「そうだったのか……」
泰継の顔は、少しずつ、ほんの少しだけど曇っていった。
「すまなかった。ならば、引き受けよう」
それは小さな変化。でも仲間から見れば、彼が悲しんでるのがありありとわかったから。
「いえ、気になさらないでください泰継殿」
「そうそう。でも断られたときは一瞬びっくりしたけどな!」
泰継も間違えるんだな~、なんて思いながら笑顔で言うけれど、でも。
「あれが楽のためのものだとは。人の習わしは難しい」
その一言には、さすがに、
「いや、あんたの発想が豊かすぎるだけだから」
言わずにはいられなかった。


と、行き違いはあったけど、三人は無事、泰継に占って貰えることとなった。
彼らが見守る中、泰継は一人で着々と準備して、
「終わった」
まだ準備中だと思ってたのにいきなり告げて、三人を大いに驚かせた。
「早っ」
「さすが泰継殿、こんなにお早いなんて……」
「んで、どうだったんだ!?」
待ちきれないイサトが身を乗り出す。イサト殿それは泰継殿に失礼では、と、泉水はいささか気にかけたけど、泰継は気にもとめず、むしろ彼こそてきぱきと、
「翡翠に聞け、と出た」
事実を告げる。
それにやはり三人は驚いた。
「翡翠に?」
「ああそうだ」
まさか仲間の名前が出るなんて。しかも、あの海賊翡翠。
「まさかあいつが犯人、とかはさすがにないよな~」
「と、思うがな」
はははは~と笑い飛ばしつつも、心から笑えないイサトと勝真の声は乾き顔は軽くひきつる。その隣の泉水は曇り顔のままだ。
「ですが、翡翠殿といえば神出鬼没だと、神子がよくおっしゃられておりますゆえ、果たして無事に見つかるかどうか……」
「確かに」
「どうしましょう」
不安そうな声音。けれど、彼の肩が硬く叩かれた。
「お前は大きな力を持っている」
泰継だった。
「問題ない」
普段なら頼もしい言葉だった。でも今はなんとなく、不安を覚えてしまうけど、
でも三人は頷いた。
「ま、行ってみようぜ」
「ここにいても仕方ないしな。泰継、助かった」
「ありがとうございました」
「うむ」
泰継も頷いた。





泉水さまの笛にもなんか設定あったような気がするんですがうろ覚え祭ですみません
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